クマと人間の遭遇機会 ― 境界が揺らぐ時代
近年、野外活動中にクマに襲われる事例が全国各地で相次いでいます。クマと人間の遭遇機会が増えたことが主な要因ですが、背景には全国的な森の再生や野生動物の生息域の拡大があります。
誰もが安全に登山やハイキングを楽しむためには今後、クマとの遭遇リスクを念頭に置く必要があります。残念ながら「これさえやれば大丈夫」というものはありません。
よく登山をする私自身の経験をふまえて、クマと人間の遭遇について考えてみます。

一番のクマ対策は「そもそも遭わない」
まずはクマと遭遇しないことが重要、クマ対策で最も重要なのは、これに尽きます。クマに遭ってしまうと、登山であればルートを引き返さなければならず、下山中だと長ければ何時間も停滞を余儀なくされ、遭難のリスクも上がります。そもそも、そんな山行は楽しくありません。
熊鈴は有効なのか
国内のクマには有効と考えられている熊鈴。ただし、団体でそれぞれつけていたり、山小屋内で鳴らしたりと「騒音」が問題になることもあるので、使う状況には注意を。
そこで「音により自分の存在をクマに知らせること」が、まずは大切です。最もポピュラーなのが熊鈴。歩くとチリンチリンと音が鳴り、クマに登山者の存在を知らせてくれます。実際、山に設置された自動撮影カメラには、鈴の音に反応してその場を離れるクマの行動が映っており、不要な遭遇を避けるには有効な装備といえます。北海道では当たり前でしたが、本州の北アルプス等の山を歩いていても、装備している人はかなり増え、上高地にも設置されました。
海外では熊鈴が危ないとされる理由
カウベル(牛につけている鈴)をつけた牛
海外を旅行した経験のある方の中には「熊鈴の音でクマが寄ってくる」という話を聞き、「熊鈴は効かない」として持ち歩かない登山者もいます。欧州では家畜にベルや鈴を付けて放牧する地域があり、その音を聞いてクマが寄ってくるからです。ツキノワグマ研究の第一人者である東京農工大の小池伸介教授も、2011年にノルウェーに留学した際、「とんだ命知らずだね」と笑われたと振り返っています。
つまり、音による対策は、クマの「この音を出す、人間には会いたくないな」と避けてくれる行動に頼った作戦なので、所変われば「餌かも」と寄って来るのは当たり前です。 鈴について、現状の日本国内ではその音を聞いて積極的にクマが寄ってきたという事例は聞いたことがないので「確率論的に」ですが、持っていた方が遭いづらいということは言えるでしょう。
熊鈴以外の有効な対策を考える
ラジオは周囲の物音に気付きづらい
釣りや山菜採り、キノコ採りの場合は、爆竹や花火で音を鳴らしてから入山する、笛を鳴らしながら歩く方という方法もあります。これも「自分の居場所を知らせる」という意味では、同様の効果が期待できます。ラジオを鳴らしながら、歩く方もいますが、常に音が鳴り続けていると、周囲の物音に気付きづらいというデメリットもあります。ただ、鈴も休憩中など止まっていると鳴らないので、一長一短です。
クマとの遭遇回避に正解はない
このほかには、古い登山者等の教えとしてストックや木の棒で、立木を叩くという方法も山では古くから行われています。これも人の存在をクマに教えるというやり方であり、「これが正解」というものがない分、いろいろなものを組み合わせて、クマとの遭遇を回避するしかありません。


この記事を書いた人 住吉区我孫子 泉谷栄二

